往復書簡、ふたりの本棚

本や音楽×日々の出来事、ゆき(うっちゃん)とりえ(やそりえ)の往復書簡

再読のたのしみ~『白河夜船』 吉本ばなな~ゆき

「カフェミスト、トール2点で777円です。ラッキーセブンですね。」

今でもスターバックスのお姉さんの笑顔をはっきり覚えている。

 無職のあなたにこれくらいおごらせてよ、と格好つけて言った私を益々気分よくさせたこのブログの初打ち合わせの時だったね。些細なことかもしれないけれど、こういうことも偶然でない気がしてしまう。本当に何もかもが自然で、キラキラと示された道をするする進んで始まった往復書簡ブログ計画だったね。

 

 この初めての打ち合わせで、あなたは『白河夜船』について話していたよね。作中で表現されている「昼間のデパートで会う、大学生でも自由業でもなさそうな妙にぼんやりとした子」を実際見たわけではないけれど、今の無職の自分とイメージが重なってすごく分かるとあなたは言った。あの時には、もう再読していたのかな?それともしっかりイメージの中にこのシーンが残っていたのだろうか。

 恥ずかしながら、私は、ほとんどの本や映画の内容をさっぱり忘れてしまう。本を読んでいるときは、すごくリアルに本の中に入っていて心がそのことでいっぱいになる。けれど、時間が経つとどれほど心震わせたお話も消えていってしまうようなのだ。そんな自分が薄っぺらで情けなくて嫌だ。単に頭が悪いだけなら仕方ないけれど、どこか大変な欠陥があるのかと不安になりもする。だから、もし、あのときあなたがまだ再読しておらず、あの話をしたのならすごいと思う。やっぱりかなわないな、と思うところの一つに足しておこう。

 

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 あなたの一稿目を読んで、私も『白河夜船』再読したい!と思ったけれど、同時に「あっちゃ~きっとだめだ」と残念な気持ちにもなった。というのも、半年前に結構大胆な断捨離をして、本も三分の二ほど処分してしまったのだ。よしもとばななさんの本も別れを惜しみながら手放した記憶と感情が私の中に残っているので、完全に諦めモードで古本屋に買いにいく気でいた。ところが、あったのだ。残り少なくなった精鋭たちが鎮座する本棚で、「ここにおりますけれど」という顔で私を見ているようだった。飛び上がるほど嬉しくて、やっぱり運命のような縁のようなものをあなたと私と、一連の流れに感じてしまった。ただ記憶力がないだけのような気もするが、お蔭で運命さえも感じられるのだから悪いばかりではないのかもしれない。

  どうしても気になって、あなたが“しおり”に似ていると言われていたことに注目しながら読んでしまった。

 

「彼女は色白でふっくらしていて、とても目が細く、胸が大きかった。決して美人とは言えなかったし、あまりにもおっとりとしたその立居ふるまいが……」

 

確かになんとなく見た目の雰囲気と、醸し出す雰囲気は近いものがある。しおりは人をふわ~っと包み込む不思議なやさしいオーラがあって、でも本人の心も薄紙のようなもので覆っていて何を考えて何を感じているのかわからない神秘的な子だ。そういうところもあなたの寛容さや、神聖さを漂わせているような魅力に似ている。だけど、私からしたらあなたは確実に寺子に方だ。寺子のしっかりしてそうで実は危ういところ、危ういようでしっかりと現実につなぎとめられる運や縁、強さが芯にあるところ。また、恋愛のやり方や考え方、寂しさを抱えながら彼のずるさや冷たさまでも愛してしまうところ。実はここが一番、過去のあなたにリンクしたのかもね(笑)。

 物語の中で、しおりは死んでしまうが、寺子は危ない状態を脱し、自分の中で変化し消化し同じ生活を別の感覚で生きていけるようになる。私もあなたの苦しみや、変化、成長を見続けてきたから、寺子の復活と新たなステージを歩み始めた姿に重ねてしまったのかもしれない。