往復書簡、ふたりの本棚

本や音楽×日々の出来事、ゆき(うっちゃん)とりえ(やそりえ)の往復書簡

つくるよろこび ~『「アク」のこと』 梨木香歩~ りえより

 暇に任せて料理をすることが多い最近。昨日はキーマカレーとチリコンカンの間のような豆煮込み。そして、今日はバナナのパウンドケーキ。余ってたドライマンゴーを刻んで、くるみも入れて。

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 料理をしていると感覚をフルに使うよね。スパイスがオイルに溶けていく香りとか、バターと砂糖に卵が、いま馴染んだ、とか。それがもう、細胞がたっぷり喜んでいるようで…豊かに満たされていくようで。いつまででもやっていたい気持ちになるんだけど、まさにそれと同じ気持ちが書かれているのを本の中に見つけて嬉しくなってしまいました。
 
『「アク」のこと』 梨木香歩 「不思議な羅針盤」より
 
食べることも嬉しいが、そのとき満たされるのはせいぜい味覚と嗅覚である。「ウド仕事」をしているときは、硬めの産毛に覆われているようなウドを触る手触り、それを剥くときのシャッという音を聞く快感と、立ち上る香りの清冽さ。酢水の中で透き通るような白と早緑の混交を見る喜び。切ったばかりの(まだアクの出ない)短冊を、酢水に入れる前にこっそり口に運ぶ喜び。文字通り、五感が沸き立つような経験である。こういうとき、ああ、料理というのはなんと贅沢な喜びであろう、と、食べるだけの人たちに対して申し訳なくさえ思うのだ。
 

 料理が好きだと思うのは、もちろん食べたひとが喜んでくれたら嬉しいとかもあるけど、自分が食材や料理のプロセスを味わっていたいから、なのだと思う。人参やピーマンの繊維を思いながらみじんに切っていく手応えや、甘くないバナナにお砂糖とレモンを足してやって火にかけているときのまなざしとか。
 よくわたしのところに来たね、会えて嬉しいねみたいな気持ち。
 そして、そんなわたしの気持ちにちゃんと応えてくれる。正直すぎる返報となってわたしを満たす。
 
 できたケーキは、今夜の飲み仲間へのプレゼント。また夕暮れて、豊かな時間がやってくる。
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