往復書簡、ふたりの本棚

本や音楽×日々の出来事、ゆき(うっちゃん)とりえ(やそりえ)の往復書簡

春へ ~『志麻さんのプレミアムな作りおき』志麻~ りえより

 約1年半ぶりの手紙!前回までの手紙を読み返して、お互いの状況のあまりの変化に、笑ってしまいました。いまや「母」だもの。前回の手紙を書いたときのわたしは、妊娠すら知らなかったというのに。

 

 今日はあたたかい日でした。用事があって出掛けたのだけど、冬と春のあいだのような晴れた日差しの穏やかさが心地よくて、娘を抱っこしてあちこち寄り道しながら帰ってきたのでした。まさに今日、生後9ヶ月になった彼女は体重8Kg。家に着く頃には肩がみしみしと悲鳴を上げていましたが、どうしてもベビーカーよりも抱っこが好きなんだよなぁ。ふたりでいるのに一人のような身軽さ。ぴったり互いの心臓を感じられる密着度。守っているのか守られているのか分からなくなるような。

 帰ってから、さっそく我らがスーパー・玉出で買い求めた長葱を料理。今夜のメインは長葱をたくさん薄い小口切りにして、豚肉と、昨日できたばかりの自家製塩麹と一緒に炒めたもの。かさの大きなしいたけは、団地に時々やってくる産直出張販売所で買った。お味噌汁にしたのがもったいなかったなと思うほど、深々とした土のにおい。規格外の小さな人参は、離乳食に使ったときなかなか柔らかくならなかったけれど、塩麹できんぴらにするとほどよい歯ごたえに仕上がった。

 

 子どもが生まれて、ますます料理と共にある毎日。この世界に現れたばかりのぴちぴちの命に触れ、食材の命に触れ、自分の命も日々垢が落ちていくよう。大学時代のアルバイトのときから料理は好きでやってきたけれど、家でこんなに料理をしたのは人生で初めて。出産に伴う、思いがけないチャンスだと思う…自分や他人のからだをつくる“食事”に、間断なく携わることのできる。

 最近料理のバイブルとしているのが、『志麻さんのプレミアムな作りおき』。昨年末に買ったのだけど、その前にストーカーのように本屋に立ち寄る度に探し、開いては買おうか迷うという期間を3ヶ月経て買ったので、もう長い付き合いのような気がしている。フレンチの料理人で、今は家事代行・出張料理人の志麻さんのレシピを紹介しているものなのだけど、単なる料理本ではなく家庭料理に寄せる志麻さんの思想が紹介されていて、そこが味わい深い一冊だと思う。

 

今日はうかがう前から、野菜スープを作ろうと思っていた。

フランスの家庭料理は、塩とこしょうが基本だ。塩は、塩味をつけるだけでなく、素材から水分を出してうまみを凝縮させる。塩によって引き出された素材そのもののおいしさが、家庭料理の基本である。今日の「農家の野菜スープ」も、まさにこの「下味の塩」で立ち現れる野菜のおいしさだ。 

 

  本で紹介されている「農家の野菜スープ」的なスープは、以前からしょっちゅうつくっていたけれど、「野菜のおいしさが塩で立ち現れるんだ」と思いながら細心の注意を払いながら塩を使うようになった。スープの味は大きく変わっていない気がするけれど、スープ作成中の癒し度は格段に違う。おなかが空いて…または眠くてわあわあ騒いでいる娘をあやしながら、おんぶしながらでも、なべの中で起こる変化に心のどこかはぎゅっと釘付けになっている。それは、娘の方も同じなのかもしれない。食い入るように見ているから。

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 毎日の食事を整える幸せ。自分や大切なひとのからだをつくる、一菜一菜を生み出す仕事のたのしさ。

 仕事が始まると、そんなふうには思えなくなるかもしれないと心の片隅でひやりと感じている。それだからこそ、今夜の食卓をつくることが愛おしくてたまらないような。あなたとやり取りした離乳食についてのキャッチボールも、すでに少し懐かしい。

 

 また持ち寄りでごはん会しよう。外で食べるのもいいね。子どもも大人も食べられるように工夫された料理は、それだけで時間を豊かにしてくれる。春が待ち遠しいね。